2005年08月27日

残したいもの

※暗いよ。

38歳の朝。今日も目覚めることが出来ました。
またあの暗闇の夢を見たけど、やっぱりマルチェ郎が連れ戻してくれたんだね。
起き上がろうとしたぼくの手をぎゅっと掴んだまま眠る彼の手が、
そうだよと教えてくれているようでした。

憧れていた人が、亡くなりました。
家族ぐるみで付き合ってくれたその人。
郎ちゃんの人生の始まりからずっと、彼の親友だった人。ぼくもこの人が大好きだった。
彼は見ていられないくらい落ち込んでいました。
ふがいないぼくにはただ隣に座り、寄り添うだけしかできませんでした。


子供たちが口々に、出かけてきなよと勧めてくれました。
特にエロスが例のおまじないをしながら…そんなに弟が欲しいの?んもーv
後のことを上の子たちに頼んで、旅行に出ることにしました。
この旅で20人目の子を身篭ることになるでしょう。

散々遊び尽くしたポルトリンクと、思い出のあるリブルアーチに行きました。
本当はサザンビークのような大きなバザーで探したかったのだけど、この街も悪くない。
ため息をつくほど細かで美しい細工の数々に目移りしながら、ぼくは探し物を見つけました。
これならきっと、気に入ってくれるはず。


アホな勘違いをした郎ちゃんにとんでもない目に合わされつつも、
ついに20人目の子を授かりました。待ち望んでいた子です。
この子を無事出産すれば、ぼくたちはこの世界の記録を塗り替えることになるはずです。

名声が欲しいとかじゃなくて、大好きな人が、ぼくと一緒にここに存在した
証のようなものを残したい。そんな風に思うようになったのはいつ頃からだったでしょう。
ただ、ぼくのおなかを幸せそうに撫でる彼の手だったり、
産まれたばかりのわが子を見るキラキラした彼の瞳だったり、
成長した子供たちと、楽しげに真剣に遊ぶ彼の姿だったり、
そういうものをもっと欲しいと思ったのが始まりだったことは、よく覚えてます。


そうしてようやく、末っ子は産まれてくれました。
名前は「ククール+♪」
銀色の髪をした、ぼく達の間に産まれた初めての子を思い出させる顔立ちの赤ちゃん。
タタールが「やっと俺似の弟が産まれた」と、普段は赤ん坊を抱くのを怖がる腕で
しっかりと抱いて、弟妹たちに順に新しい弟の顔を見せてまわっていました。

もう何度も見てきたはずなのに、はしゃぐ子供たちの姿がまぶしくて少し涙を浮かべると、
側で寄り添っていた旦那さまがそっと手を握ってくれました。
大丈夫、平気だよ。
「あと一人増えれば、家族だけで審判つきサッカー対戦できるね」
なんて冗談でごまかすと、彼は困ったようにフッと微笑んでくれました。


子供たちが食事をする為に病室から出たのを見計らって、
ぼくは小さな包みを取り出しました。

「郎ちゃん、これ預かっててくれない?」

手渡したのは、あの日リブルアーチで手に入れたもの。
彼の大きな手には少し不釣合いかもしれない、可愛らしい写真立て。
美しい色と、四隅に小さなクローバーを散らした細工が気に入って買ったのだけど。

「それね、ククール+♪が大きくなったら渡してあげてほしいんだ。
 …中にはククール+♪の写ったぼくたちの家族写真を入れてあげて」


写真立てを受け取って、裏表にヒラヒラ翻して遊んでいた彼の手が、
その言葉に動きを止めました。そうして、ぼくの目を見つめ返してきました。

心の奥まで覗き込むように、じっと。

なんとなく予感がしていました。この子が僕らの最後の子になるであろうこと。
まだ幼い下の子たちが、母を知らない子になるであろうこと。
だからこそ一層、自分でお世話をしてきたけれど
ククール+♪にはそうしてあげられる時間も、わずかしか残ってない気がして。
残せるものは何でも残してあげたいと思ったのです。

でも、余計なことだったかな。
きっとぼくがいなくても子供たちはよい子に育つでしょう。
この子にはやさしいお父さんも、頼もしい兄姉たちもいるんだもんね。

「郎ちゃんとぼくには、こっちね」

もう一つ、大きなアルバム帳を二つ取り出して片方も彼に手渡しました。
焼き増しするのが大変だったけど、中にはそっくり同じたくさんの写真を入れてあります。
つかの間の別れがきても、同じ思い出を向こうへ持っていけるように。


「何を弱気なことをしてるんだ」と怒られるのを覚悟していたんだけれど、
彼は写真立てとアルバムの表紙に視線を落としたまま言いました。

「………わかった。この写真立ては、末っ子が大きくなったらその子に渡そう」

そういって椅子から立ち上がりうんと伸びをしたあと、病室の窓を大きく開け放つ彼。

「さぁて、ではまた旅行でもするか。
綺麗な場所がいいといっていたが、具体的にどの辺がいい?」


「…郎ちゃん」

「ムックも産むんだろう、87ちゃん?」

振り返って、イタズラの計画を打ち明かすかのように楽しげにニッと笑う郎ちゃん。


でも、ぼくは、でも、でも…!


この押し潰されてしまいそうな大きな不安を伝えようとして開いた口は、
かがみこんだ彼の唇にぐっとふさがれてしまいました。

押し付けるだけのキスだけど、たったそれだけのことだったけど。
ドキドキして体温が上がって胸が破裂しそうで…未だにこんなに心が昂るほど彼が好きで。

長い時間そうしていた唇を離して、彼がいいました。

「もう言わなくていい」

全部わかってるから。


その瞬間、なんだかすべての糸が切れてしまったように、
ぼくは堪えることもせず郎ちゃんの肩にしがみついて大声で泣き喚きました。

声に驚いた看護婦さんや隣の病室の人が様子を見にきたり、
戻ってきた子供たちが「お父さんがお母さんを泣かした!」と彼を責めたり、
オロオロとした誰かの手が、ぼくの背を一生懸命さすってくれている間も、
きょとんとした目でこちらを見ているククール+♪と目が合っても、ずっとずっと。


結局次の日は泣きはらした目が無残に腫れて、半日目を開けてられない状態でした…。
引き続きお母さんを泣かした悪者として、子供たちから蹴りを入れ続けられている
郎ちゃんをかばってあげなきゃと思ったけど…
むくんだぼくの顔をみるなり「…ブサイク」と呟きながら思わずプッと
吹き出した彼にムカついて、ぼくも蹴りに参加しました。

あの写真立てに、アルバムに、幸せなぼくらの姿を少しでもたくさん、残せますように。


中の人、27日は丸一日お出かけの上帰宅時はべろべろと酔っぱらっており
更に次の日87と同じく目がぶっくぶくに腫れて風邪なぞまでひいてしまったせいで
すっかり記事が遅れてしまいました…。
87の人生がどうなったのか、ここをご覧になる皆さんはご存知でしょうが
あと少しだけ、お付き合い願います。

そしてマゲドンさん。遅くなったけれどお別れを。
最後まであなたは87の理想とする素晴らしいジェントル奥様でした。
来世もあなたに幸多からんことを…。
posted by エイト87 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/6360448

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。